Portraits of Roses

横浜イングリッシュガーデン(YEG)のバラを中心に様々なバラを紹介します

小春日和 Koharubiyori

ダブル受賞

 

小春日和とは、晩秋から初冬にかけての晴れた暖かい日のこと。
だいたい11月〜12月初旬あたり。
このところ東京は、まさに小春日和といった日が続いています。

 

小春日和 Koharubiyori

日本 1993年
安田祐司 作出

↑ 上の三枚は、2024年の5月、横浜イングリッシュガーデン(YEG)で撮影。

 

淡いピンクで花びらが少しフリフリしていてかわいい。
野生種寄りの花なので、春のみの開花かと思ったら、四季咲きでした。

YEGのこのバラが咲いているエリアは一重のバラや素朴な印象のバラが多く植えられています。
場所はローズ&シュラブガーデンの茂みの中に丸いベンチがある周辺。
ここにもちょっと珍しい木が植っています。
ベンチの真ん中に植えてある木。

ユリノキです。別名チューリップ・ツリー、ハンテンボク。
ユリもチューリップも初夏に咲く花の形からついた名前。
一方、ハンテンボクは、葉っぱの形が袢纏(はんてん)に見えることから。

写真は葉っぱの先が二つに分かれているけれど、時には垂直に切ったような形になるので、より、袢纏っぽく見えます。

ユリノキはとんでもなく大きくなる(原産地アメリカでは60メートルにも! 日本では30メートルくらい)のですが、これは、黄覆輪の葉っぱで、「オーレオマルギナツム(Aureomarginatum)」という品種。
普通のユリノキは街路樹などでもよく見かけますが、こちらの品種は珍しい。

 

バラに戻って、以下は2024年10月末の「小春日和」
春の花がらを取らずにいたようで、ローズヒップも一緒に見られます。

花とローズヒップが一緒だとかわいさ倍増。

ところで、日本における主なバラのコンテストには、以下の3つがあります。
香りを重視した【国営越後丘陵公園 国際香りのばら新品種コンクール】
世界中の育種家から出品された未発表のバラ苗を神代植物園の試作場で2年間にわたって審査する【JRC 新品種コンテスト】
日本の気候風土に適応した耐病性に優れたバラを選抜する【ぎふ国際ローズコンテスト】

こちらのバラは、「JRC 新品種コンテスト」と「ぎふ国際ローズコンテスト」の両方で、金賞を受賞したバラです。

 

もう12月! 一年たつのが早い。
今年こそ大掃除を前倒しにするつもりでいるのに、遅々として進まず。
小春日和の続いているうちにさっさとやらねば〜

 

炎 Homura

葉っぱが斑入りのバラ、第三弾

 

炎 Homura

日本 2007年
河合伸志 作出

「炎」という名前の通りに華やかなバラ。
濃い紫のクレマチスとの組み合わせが絢爛豪華です。

このバラの情報は全然見当たらなくて、交配や何かの枝変わりなのかなどもわからず。

作出者の河合伸志氏は、紫や茶系のバラを好まれ、華やかさの中にも渋みのあるバラを多く作られています。
「炎」は、河合氏の作出のバラとしてはちょっと異色と言えるかも?

 

上の写真、2点は2022年の撮影です。
今年(2024年)は、雨が降った後に撮影。青味が強く撮れてしまい、花色がずいぶん違う。
特に赤系のバラは、肉眼で見ている色のままに撮れず、撮影が難しいです。

実際の花色は朱赤↓ に近かったように思います。

前々回から、斑入りの葉っぱのバラを3種紹介しました。
横浜イングリッシュガーデンには他にも斑入りの葉っぱのバラがあるかもしれません。
少なくともノイバラで斑入りの葉のがあるようなので、また春に探してみます。

 

キュリオシティ Curiosity

好奇心は猫をも殺す

 

葉っぱが斑入りのバラ第二弾。

 
キュリオシティ Curiosity

スコットランド 1971年
Alexander M. (Alec) Cocker 発見

 

前回の「ローザ・ヘルシューレン」は長い歴史を持つオランダの家族経営のナーセリーの創業者が作出したバラですが、こちらの「キュリオシティ」もスコットランドで長い歴史を持つナーセリーの一族の一人によって発見されたバラです。

アバディーンシャーのフレイザー城のヘッドガーデナーだったジェームズ・コッカーは、雇い主から安息日である日曜日に果物を摘むよう要請され、口論になり、仕事を辞めて、1841年にアバディーンで苗木園を開きました。

当初は、樹木や草花を販売して事業を拡大していきました。ジェームズの死後にはその息子のジェームズ(父と同名)が事業を継ぎました。
2代目のジェームズには、3人の息子(ウィリアム、ジェームズ(3代目)、アレクサンダー)がおり、息子たちも事業に加わり、1882年にJames Cocker & Sonsと社名を定め、1890年代には、バラの育種を始めました。

最終的に他の2兄弟が亡くなり、アレクサンダーが単独経営者となりましたが、1920年にアレクサンダーが亡くなった後、1923年に苗圃は閉鎖されました。
しかしアレクサンダーの息子のアレクサンダー(父と同名、通称アレック)が1936年に菊やポリアンサなどを育て始め、総合苗木園を再開。
その後、第二次世界大戦中に出会ったアン・レニーと結婚し、新しい苗木園を設立。郊外に広い土地を購入し、1960年代に事業をバラに特化することに決めました。
1976年には女王から王室御用達の称号を授与され、女王即位25周年を記念する「シルバージュビリー」を作出しました。

この創業者ジェームズのひ孫に当たる、アレクサンダー(アレック)によって、キュリオシティが発見されました。
キュリオシティは、クレオパトラというバラの枝変わりです。

 

アレックは、「シルバージュビリー」の成功を見ることなく、1977年に突然、心臓発作で亡くなり、事業を妻のアンが引き継ぎました。
アンは事業を拡大し、バラの育種家として80代になっても活躍していたそうです。
2002年には女王からアンに王室御用達の称号が授与されています。
そして現在は、初代の玄孫に当たるアレック・ジュニアがシニアパートナーとして妻のリアンと共に家業を引き継いでいます。
2018年には、皇太子(現国王)から王室御用達の称号を授与されました。

こちらの一族は男子の名前が、ジェームズとアレクサンダーだらけで、ややこしい。
ちなみに英国王室御用達は、企業だけでなく、個人にも与えられ、5年ごとに審査があって、更新が決まるそうです。

 

ところで、バラの名前の「キュリオシティ」とは「好奇心」のことですが、名付けの由来についてはよく分かりません。
葉っぱが斑入りというのが物珍しく、花びらの表が赤、裏が黄色という派手な色合いで「おや、なんだろう?」と人目を惹きつける、というような意味合いでしょうか?

↑ 葉っぱに白く丸く見えるのは、桜の花びらです。

 

「curiosity」を辞書で引くと、"Curiosity killed the cat"(好奇心は猫を殺す)ということわざが出てきました。

妙なことわざに思えますが、イギリスでは、"Cat has nine lives"( 猫に9生あり)
猫は9つの命を持っていると言われていて、そんな猫でも好奇心で命を落とすことがあるということから、「過度な詮索好きは災いの元となる」という意味だそうです。

 

ローザ・ヘルシューレン Rosa Verschuren

10番目の子

 

葉っぱが斑入りのバラ。

ローザ・ヘルシューレン Rosa Verschuren

オランダ 1904年
H.A. Verschuren 作出

 

作出者のH.A. Verschuren氏(1844-1918)は、オランダの小さな町、Hapsにある学校の校長でした。
趣味のバラ栽培に熱中し、教育かバラかという選択をせまられて、バラを選び、大きな事業へと発展させました。
晩年はバラの交配にも取り組んだそうです。

また子供、孫、ひ孫もバラの事業を引き継いでおり、分家のような感じで、他のナーセリーを立ち上げた方もいて詳細は追いきれませんが、本家と言えるロイヤルを冠したナーセリーを親戚筋から買い取ったMarc Verschuren氏(創業者のひ孫)が、Koninklijke Kwekerijen H.A. Verschuren & Zonen(Royal Nurseries H.A. Verschuren & Sones)という会社を引き継いでいます。

この一族は作出したバラに家族にちなむ名前を多くつけていて、息子たちが創業者であるH.A. Verschuren氏を記念して名付けた、Souvenir de H.A. Verschuren というバラもあります。

今回取り上げた、Rosa Verschuren は、H.A. Verschuren氏の末子(10番目の子)の名前をとったバラです。
バラの名前としては、単に「Verschuren」とも呼ばれるようです。

Koninklijke Kwekerijen H.A. Verschuren & Zonen のサイトのバラの解説によると、Rosa Verschurenさん(1898-1975)は、「率直であること」をモットーとし、誰に対してもその態度を貫いた、とありました。

 

2024年 秋の花
コスモスやアノダの花と↓

ナーセリーの近くには、Het Roozenhuys という場所が設けられ、一族が作り出してきたバラをコレクションしたバラ園があります。
最も古いバラは1899年作出のもので、100年前のベストセラーだったバラも見られます。
購入が可能なものもあり、古い品種の多くは素晴らしい香りで愛されているのだそうです。
お茶とケーキ付きでバラ園のガイドツアーもやっており、貸し出しスペースや宿泊施設などもあって、結婚式もできるそうです。

 

ゴールドモス Goldmoss

黄色いモスローズ
 
ゴールドモス Goldmoss

アメリカ 1972年
Ralph S. Moore 作出

前回に続いてモスローズ、3つめ。
このバラは、Ralph S. Moore氏が長年かかって作出した四季咲きの黄色いモスローズだそう。

名前は見ての如しで特に蘊蓄はないです(^^)


なので、余談。

先日久しぶりに映画を見ました。

「名優 マイケル・ケイン引退作」の上に、「クリストファー・ノーランに愛された男」とあるのにちょっと笑ってしまった。
バットマンの執事役、なかなか素敵でした。

映画館の前を通りかかって、このポスターを見て、全然予定していなかったけれど、ちょうどいい上映時間の回があったので、見てみることに。

老人ホームで暮らす夫婦を演じる名優二人の息がぴったり、まるで本当の夫婦のよう。
若い頃は別の役者が演じているけれど、ダンスで意気投合した二人は会場を抜け出して見晴らしのいい高台へ。
そこにドッグローズが咲いていて、ちょっと二人の会話の中でも触れられる。

出会いから幾年月、年老いた今、ドッグローズの花を通して、よみがえる想い。
恋に落ちたあの日も、戦争ではなればなれになっていた不安な日々も・・・

なかなかいい映画でした。
マイケル・ケインとグレンダ・ジャクソンは、50年ぶり、2度目の共演なんだそう。
ともにオスカーも2度受賞している。
90歳近くになって、こうした作品が撮れるって役者冥利に尽きますね。
残念ながら、グレンダ・ジャクソンは映画を撮り終えてから、昨年、公開前に亡くなられたそうですが、最後にすばらしい作品を残してくれました。

ドッグローズは横浜イングリッシュガーデンにも植っていて、撮ったことがあると思うのだけれど花の写真が見当たらない。
また来春のシーズンに撮影して紹介したいと思います。

 

クレステッド・スイートハート Crested Sweetheart

きもかわいい?

 

前回に引き続き、モスローズ。

クレステッド・スイートハート Crested Sweetheart

アメリカ 1988
 Ralph S. Moore 作出

"Crested" (クレステッド)というのは、「とさか」とか「たてがみ」などの意味があるので、この花を囲むパセリのような萼片を覆う腺毛の形状からきている名前かと思います。
この腺毛を指でこするとバルサムのような香りがするとありました。
バルサムとは、樹木から分泌される樹液のことで、松脂とか針葉樹の香りに近いみたい。

 

ウーパールーパーみたいな奇妙な姿だけれど、妙に味わいがあって、なんだか見ているうちに愛着が湧いてきました。
このバラ、葉っぱも独特です。

バラは花につい目が行ってしまうけれど、よく見ると葉っぱもそれぞれ個性がありますね。

 

作出者の Ralph S. Moore氏は、以前紹介した「カフェ・オレ」を作出した「ミニチュアローズの父」と呼ばれている方。

102歳と長寿で、100歳の時も現役のガーデナーだったそうです。
似たようなハイブリッドティー(四季咲きの大輪花)ばかりが作出される業界には背を向け、自分の道を突き進みました。
売れ線を狙った利益を上げるための交配を嘆き、ローズ・ショウなどに出品される大輪のバラのことを ユーモアたっぷりに "cabbages on a stick"(串に刺さったキャベツ)と呼んだりしていたそうです。

次回は、Ralph S. Moore氏のもう一つのモスローズを紹介します。

 

ゲーテ Goethe

若き日に薔薇を摘め

 

「トゲあってこそバラ」という意見もありますが、こちらのバラのトゲ(正確には腺毛)だらけの姿はちょっと異様な雰囲気。

 

ゲーテ Goethe

ドイツ 1911年
Peter Lambert 作出

つぼみから茎にかけて、まるで苔(モス)が生えているよう。
ケンティフォリアローズの枝変わりと考えられ、その姿から、「モスローズ」と呼ばれています。

名前の「ゲーテ」は、ドイツの文豪のヨハン・ヴォルフガング・ゲーテにちなんでつけられました。
ゲーテは、『若きウェルテルの悩み』『ファウスト』など、詩・戯曲・小説の創作のほか、自然科学研究でも知られています。
恋愛遍歴も色々伝わっており、その逸話からは、少々ダメンズのニオイが。「恋してる状態の自分が好き」みたいな?
よく知らないので、ただの憶測ですが。
女性への執着心が強いのに、いざ結婚となると尻込みしたり、74歳の時に19歳の女性に結婚を申し込んでみたり。
本人は恋が成就しようが、失恋しようが、創作に昇華してしまうのでいいけれど、女性側としてはどうだったのかな?

 

かわいらしい花です。「文豪」というイメージからはちょっと遠い感じ。
ゲーテにちなむバラは他にもあって、「ゲーテ・ローズ」というドイツのタンタウ作出のバラは、花弁も多く、大ぶりで、紫がかった濃いピンク色。「文豪」イメージに合ってるかな。

 

参考↓ 

「ゲーテ・ローズ」 四季の香ローズガーデンにて
「ゲーテ」から100年後の2011年作出

 

ところで、「若き日に薔薇を摘め」というのは、瀬戸内寂聴さんのエッセイか何かで読んだ言葉で、その意味するところは、「バラを摘み取る時にトゲで傷ができたとしても、若ければじきに治る。そのように若い時なら、心が傷つくような体験をしてもいずれ癒される。しかし歳を取ってからではそうはいかない。だから、若いうちに傷つくことを恐れずに行動せよ」ということかと思います。

 

元は、イギリスの詩人ロバート・ヘリックの詩の一節とあったりするのですが、意味合いはちょっと違うように思います。

詩のタイトルは "To the Virgins, to Make Much of Time" 
「乙女たちへ、時間を大切に」

冒頭の一節が「若き日に薔薇を摘め」と似通っています。

Gather ye rosebuds while ye may.
「摘めるうちにバラのつぼみを摘みなさい」

締めくくりは、
And while ye may, go marry:
For having last but once your prime,
You may forever tarry.

「そして、できるうちに結婚しなさい。最盛期はただ一度きり、逃せば手遅れとなる。」というような意味かと。
う〜ん、今こんなことを言うとちょっとね・・・


とはいえ、やっぱり若い時にしかできないことはたくさんあるし、老いが奪っていくものもたくさんあります。(近頃実感することばかりで・・・)

これはまた、さらに現実的なことだけれど、お金(投資)についての話の中で聞いた言葉。
「リスクを取らないことが最大のリスクである」
これって、投資の話だけでなく、人生においてもですね。
(これまでの人生、リスク回避に汲々としてきました ^^;)

 

ゲーテは、年老いても、傷つくのも構わずバラを摘む人。
こんな言葉も残しています。

"Whatever you do, or dream you can do, begin it.
Boldness has genius, power and magic in it."

あなたにできること、あるいはできると夢見ていることがあれば、今すぐ始めなさい。
向こうみずは天才であり、力であり、魔法です。